[New] Gen Z サーファーのスタートアップ観
Ha-jun は今年28歳の韓国系アメリカ人エンジニア。両親が韓国からアメリカに来たのはHa-jun が生まれる数年前だったらしい。アメリカの大学でPhD を取ったサイエンティストの父親がアメリカの研究機関で働くことになって、新婚の妻と共に渡米し、数年後にHa-jun が生まれた。名前の「Ha」の部分は夏と言う意味だと教えてくれた。夏に生まれた才能のある子供という親の想いがこもった名前だそうだ。才能があるという点では、抜群で、高校生の時には、ピアノ、バイオリン両方の全米コンペティションで、かなりのところまで行ったらしい。自慢話っぽいことは苦手で、自分ではあまり語ってくれないが、彼の「遊び仲間」が話題にしているのを聞いたことがある。大学時代はエンジニアリングを専攻しながら、課外活動に盛んに参加して、歌も歌えるし(かなりの歌唱力)、ギターも弾いて、作曲もできるらしく、いろいろなサークルから引っ張りダコだったという。卒業後務めたスタートアップの調子が悪くなって、数ヶ月前にレイオフの対象になってしまった。「そろそろ、ちょっと焦って来てるけど。」と言いながら、何となく明るさがある。
彼の「遊び仲間」は、社会課題を解決する事業やスタートアップについて検討する、ちょっとした勉強会仲間だが、キャンピングをしたり、それぞれ得意の料理に腕を奮って食事会をしたり、一緒に街のコーラス・グループに参加したり、スキーに行ったり、共に楽しむ時間と、真剣に話し合う時間をうまくバランスしている印象を受ける。中核のメンバーは6人で、その時々、周辺の友人や知人が加わっていると聞く。中国系、ユダヤ系、イタリア系、韓国系のアメリカ人という具合に、民族的には多様で、それぞれのエスニックを生かした食事会は、かなり楽しそうだ。昭和時代に生まれ「追いつき追い越せ」主義のガチガチな価値観に固まっていた、自分の20代の後半の生活と比べると、この友達グループの生活はずっと豊かな感じがして、何とも羨ましい。ビジネスの世界では「扱いにくい。」と時々批判されるGen Zだが、私から見るとこういう若者達 は、自分なりの生き方をよく知っていて、自分の軸があって、長期的には幸せな人生を送って行きそうだと思う。(参考:Top Gen Z Characteristics Businesses Need to Know by Medallia)
ある日、何気ない会話から、Ha-jun はサーフィンもすることを知った。特に最近サーフィンには熱を入れていて、機会があれば、”catch the waves” しに行くことにしているそうだ。「サーフィンをしていると、スタートアップはサーフィンに似ている。」と思うことがよくあるそうだ。大きなウェーブが来る場所に対する知識、ウェーブの種類と動きに関する知識と感覚、ウェーブを待つ期待感、パドリング(サーフボードに腹ばいになって手で漕ぐ動き)やボード上でバランスをとるための基礎訓練(特に体幹の強化訓練)の必要性、天候や気象状況への気配り、全体を見渡しながら、どこにいつウェーブが来るかを見極め、絶妙のタイミングでポップアップする(立ち上がる)重要性とスリル感、どれをとっても、スタートアップでの経験と似ていると言う。彼がレイオフにあったスタートアップでは、準備は順調で、製品も完成度が高く、チームの訓練もできていたにも関わらず、結局大きな需要が起こらず、会社を大幅縮小するしかなかったらしい。いわばサーフボードで沖までパドルして、大きな波が来るのを待っていたのに、結局来ないままに終わってしまったということだろう。
サンタクルーズのサーファー達
Ha-jun はその経験を振り返って、「楽しかった。」という。レイオフされたことに対して、残念だけれど、皆ベストを尽くした挙句のことなので、ネガティブな気持ちは残らなかったと言う。彼曰く、「スタートアップが成功して、今でも続けられていれば、良かったかも知れないが、ダメになったことで、学んだことが多かった。パドルして沖に出て行くまでの準備のところ、つまり、毎日四苦八苦して仲間と製品のプロトタイプからお客さんに納められるサンプルまで持っていく過程、テストで何回も失敗した後、やっと目標値を達成できて皆んなで歓声を上げた、あの日。。。そういうことが、すごく楽しかった。良い思い出になっている。」
次の仕事は何をするか、まだ決まっていないHa-jun は、大企業も視野に入れてはいるものの、仲間と一緒に夢中になって作り上げて行くスタートアップで、またトライしてみたい気持ちが強いらしい。仲間と一緒に本当に解決したいことに取り組んで、サーフィンのように「ポップアップ」に何度も挑戦して、倒れたり、波に乗れなかったり、そういうプロセスを共有できる仲間と一緒にいること、それがこのGenZ サーファーにとっては理想のスタートアップ観なのだろう。ユニコーンとかデカコーンになることに憧れる従来の若手起業家とは、少し違ったところにあるGen Z の価値観が伺える。
彼は、青空を眩しげに見て、少し遠くに視線を投げながら、「サーファー仲間とあれこれ相談しながら、早起きして準備し、最適のウェーブを見つけに行くところ、もの凄いウェーブには出会えなくても、そこそこの波に何回か乗れて、その後バーガーを食べながら、ビールを片手に、次の日の作戦を立てたり、次の大きなツアーはどこにするか夢を馳せたり、その辺のところがすごく楽しい。」と言って微笑んだ。「もちろん、凄いウェーブに乗れれば最高だけどね。」つまり、ユニコーンやデカコーンになるチャンスがあれば、それは拒まないということだろう。そういうちょっとお茶目なところも、Gen Z の可愛らしさで憎めない。Gen Z の価値観に現れるDEI の尊重や環境問題に対する高い意識が、アメリカで逆風を受ける中、この若者達のヒューマンタッチなあり方、優しさや思いやりが掻き消されないことを祈っている。
(参考)シリコンバレーからハイウェイ17沿いにサンタクルーズ・マウンテンを超えて太平洋側に出ると、全米からも、地元からもサーファー達が集まるサーフィンのスポットが幾つかある。レベルの高いサーファーが挑戦するSteamer Lane から、もう少し易しいCowell’s Beach まで、難易度も様々。サンタクルーズ方面は、シリコンバレーから日帰りで行きやすい観光スポットの一つ。海岸でのサーファー見物も、海辺のカフェでの食事も気軽に楽しめて、青空の元で心が軽くなる。春から夏にかけて、お天気の良い日は、ハイウェイ17がかなり混むので、早めのお出かけがお勧め。
エレクトリック・バイクにサーフボードを積んで、海岸を行き来し、ベストの波を探すサーファー