新しい価値を創り出す人財【3】

3. シリコンバレー・イマージョン研修のアプローチ

日系企業の駐在員を主な対象とした研修プログラムは、2017年当時GSVlabs と呼ばれていたアクセラレーター兼コーワーキング・スペースを利用して、数社から2人ずつ、4チームを集めて実施した。シリコンバレーの雰囲気にどっぷり浸かり(イマージョン)、「短期間で必要な基礎知識とスキルに触れ、シリコンバレーで実現したいビジョンを構築し、行動計画を作るところまで持って行くこと」を主な目的とした(下図②)。シリコンバレーでの研修効果を増すために、駐在が決まった時点で、リモート研修を始めることも重要なポイントとした。この段階で、なるべく多くの知識を習得することを目指し、かなりの量の宿題も取り入れた。YouTubeのビデオをフルに活用し、英語の題材を中心にして、英語でのコミュニケーション(特に発言、発表)に慣れることで、シリコンバレー赴任の備えとした(下図①)。更に、実際の業務を進めるには、短期研修だけでは不十分という現実に基づき、研修のフォローアップ、継続的スキルトレーニング、業務推進支援を加える例も出てきた(下図③)。従って、全体としては、下記の通り①から③の3つのセグメントの構成となり、各セグメントの長さは、各社のニーズと状況に合わせてある程度柔軟性を持たせた。

研修プログラムの詳しいコンテンツについての説明は割愛するが、プログラムのアプローチの特色は、下記の14ポイントにまとめられる。

  1. シリコンバレーの環境にどっぷり浸かるイマージョン方式

  2. インタラクティブなワークショップ形式

  3. 受け身の知識習得では無く、実践とアウトプットを重視

  4. 講師の役割は、知識の教授では無く、研修生の能力を最大化するコーチ

  5. デザイン思考やリーン・スタートアップのアプローチ採用

  6. 最低2人のチーム制

  7. クライアントのニーズに合わせたカスタム設計 

  8. 2週間から8週間程度の集中トレーニング+40週間程度の継続的業務支援

  9. 100%英語対応可

  10. ケース・メソッドによるロールプレイ採用

  11. スタートアップとのネットワーキングの機会提供

  12. 1対1のコーチングやフィードバック提供 

  13. 個別パフォーマンス評価提供

  14. 最終アウトプットは、ビジョンと行動計画の発表形式

これらの特色の内、最も重視しているのは、受け身の知識習得では無く、研修生のアウトプット(=創造すること)を成果として求める点で、その根底には、研修生が「解決したいこと、やりたいこと、実現したいこと」を引き出し、その実現に向けてモーチベーションを刺激するようなコーチングをすることに研修の真の意義があると信じているためである。前述したように、このプログラムの主な目的は、「①短期間で必要な基礎知識とスキルに触れ、②シリコンバレーで実現したいビジョンを構築し、③行動計画を作る」ところまで持って行くことだが、この中で、日本企業の駐在員にとって最も難易度が高いのは、「②シリコンバレーで実現したいビジョンを構築すること」である。その理由は、概ね日本企業の社員は、与えらたタスクをきちんとこなすことに長けていて、自分の実現したいビジョンを持つ機会を与えられていなかったり、ビジョンは、経営層が作るもの、というような通念があったり、やりたいことがあっても、社内調整の大変さを考えると消極的になってしまうことが多いためだろう。日本企業のそのような現実を理解しながら、敢えて「②シリコンバレーで実現したいビジョンを構築すること」を研修プログラムの目的に含めたのは、端的に言うと日本を支えていく人材に最も必要とされているのは、「これをやりたい、実現したい、達成したい。」という意欲を持ってもらうことなのでは無いかと常日頃感じてきたからである。特に、「これをやりたい。」の部分については、自己のため、自社のためを超えた、「社会課題の解決」を目指すことを課題とした。(つづく)

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